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2012年度(第2回) 選考状況

2012年度(第2回) 選考状況

2次選考通過作品 順不同

2次選考通過作品 順不同
  • 『サンクス・ナイト』 根本起男(ねもとたつお) 
  • 『gray to men』 石川智健(いしかわともたけ)
  • 『梟の棲む喫茶店で』 知念実希人(ちねんみきと)
  • 『柿崎トオルの出会った数奇なる自殺請負人』 大木磐(おおきばん)
  • 『夢みるチカラ』 会津泰成(あいずやすなり)

クイックドロウ / シュウ・ヤジマ

あらすじ

川渕祐子こと通称ブッチは、米国でコカインを運ぶ仕事の途中、大きなトラブルに見舞われていた。500万ドル相当のコカインを輸送先の街へ運ぶ途中、DEA(米国麻薬取締局)のみならず警察やFBI、CIA、他組織までもがそれを奪おうと追跡してきたのだ。旅の途中で出逢った行きずりの少年・モンドを連れて逃亡を続けるブッチ。逃げながら、彼女はある事実に気づく。狙われているのはブッチのコカインではなく、モンドの方ではないのかと ―― 。一方、ロスアンゼルスでは残忍な一家惨殺事件が起きていた。長男の遺体が足りない。事件を追う刑事・クワンはその背後に「カタナ」と呼ばれる正体不明の暗殺者の存在に気づく。その後に続くさまざまな事件にも付きまとう暗殺者「カタナ」とは、一体誰なのか。そして、ブッチとモンドの逃亡劇の行方は?――見えない糸で繋がるいくつもの事件は、どう決着を迎えるのか……!? 本格ハードボイルド・アクション・ミステリー!

二次選考・選評

血みどろの銃撃戦!売春宿の大爆発!死体の山!特殊工作部隊!じわじわ効く拷問!墜落する巨大ヘリ!秘密諜報組織同士の情報戦!そして妖剣の斬れ味!これでもかという暴力描写を楽しんで読んだ。自分で「タランティーノ」と書いてしまっていなければ、まさにタランティーノ監督にシナリオとして読ませてみたいような作品。

セリフ回しや状況描写もうまい。物語のカギとなる「カタナ」の正体が明かされてから、さらに物語のスピードが増してゆく疾走感が素晴らしい。難しいバトルシーンを大きな破たんなく、しかも読者に絵を想像させつつ描ききった実力を評価したい。

選考会では、主人公の「ブッチ」というあだ名に疑問が出た。当初から日本人であることを明示したほうが読者が興味を持つのではないか。ただし、強い男性的イメージを喚起する「ブッチ」をあえて女性の通り名とすることが心憎い演出となる、という意見も聞かれた。

タイトルは概ね好評。しかし、Mac OSの画像描画プログラム「クイックドロー(QuickDraw)」を連想させるとの声もあった。

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エリッサ様、前方に敵艦を発見しました / 高橋忍(たかはししのぶ)

あらすじ

紀元前7世紀、蒼き海原に囲まれる海洋都市国家・テュロス ―― 。ここに「国家創設以来の美少女」と呼ばれる巫女姫がいた。いまだ15歳、テュロスの若き王女・エリッサである。エリッサは海を愛し、そして海からも愛されていた。その証拠に、彼女は、あるとんでもない才能の持ち主だった。……叔父との結婚が決まったエリッサは、思い出作りにと家出同然でキプロス行きの戦艦隊の一隻に乗り込んだ。そこでギリシャ海賊隊の襲撃をうけ、エリッサが全艦隊の指揮を執ることになる。「総員、戦闘配置に就いて!」エリッサの天才的な海戦術でテュロス艦隊はみごと圧勝。彼女は以来、いくつもの海戦へと乗り出してゆくこととなった。しかし、そんな彼女に次々と試練が襲う。父王の急死、敵国からの誘拐騒動……。エリッサはどのように危機を乗り越えてゆくのか? 痛快美麗なヒロインが大活躍する、古代歴史ファンタジー!

二次選考・選評

フェニキア人国家テュロスの姫君エリッサの快進撃。強気な少女が状況を変えていくエネルギーと、彼女に様々な求婚者が現れるドタバタ・コメディが痛快。エリッサとその従者ヒラムの丁々発止のやり取りはテンポも良く、本作の醍醐味の一つ。

カルタゴ創成期にあたる古代オリエント史という、一見して興味を持ちにくい舞台設定を選びながらも、登場人物のキャラクター性がはっきりしていて普遍性がある。正統派ファンタジー小説のひとつとして、海外でも受け入れられるだろう。映像的にも海戦、一対一の素手の格闘や剣劇、炮烙弾や投石紐などバラエティに富んでいて楽しめそう。

なにより素晴らしいのは、本作を通じて古代地中海史に対する興味がわいてくるところだ。都市名や国名などは学校の歴史の時間で覚えたまま忘れていた単語が多く、それらが本作を通して実感のある言葉としてよみがえる。ここから新たに歴史を学ぶきっかけにもなるだろう。

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COLORED / 織久野恵章(おくのやすのり)

あらすじ

人間の様々な感情から生じる「心色」を他人に「染め付ける」ことで、意図的に感情を操作できる「心色士」。これは、ある一人の心色士の誕生を描いた物語である。 ―― 祖父を亡くしたばかりの予備校生・青井春爾。彼は祖父の「まだ視えんか?」という遺言の意図をはかりかねていた。しかしついに、春爾にその言葉を理解する時が訪れた。恋をしたのだ。目を瞑った暗闇に、強いピンク色が広がった。春爾に「視えた」瞬間である。すると、春爾の前に日本心色士連盟なるものが現れ、途端にスカウトされた。そこで春爾は「心色士」の存在を知り、「心色」について様々なことを学ぶ。視える色が人によって違うこと。また、対戦によって相手を自分の色に染める「色取」の力。そして、春爾が連盟に入ったころ、その「色取」の力を悪用する人間が現れたのだ。最初の犠牲者は、心を強力な「暗色」に染め上げられ昏睡状態に陥っていた。春爾は強力な「色取」能力を持つ山吹という男と共に、犯人を捜し始めたのだが……!?

二次選考・選評

「色」を中心にした五感の感覚変容で闘うという発想自体は(決して新鮮ではないけれど)悪くない。内容は一般読者であっても受け入れやすく、さらに恋愛をからめたハッピーエンドの大団円というエンディングは非常に読後感も良く、広い層に受け入れられると感じた。

感情に応じた色が人から滲み出ている感覚や、協会の存在や活動の様子などにリアリティがある。他人を「染め付け」ることで生じる個々人の争いや、愛する人への癒しなど、心を揺さぶるものがある。

ただし、「色取」バトルの描写が若干わかりにくい箇所がある。おそらく立った状態で「色」だけを戦わせるのだと思われるが、赤瀬とのバトルの際は物理攻撃もあり、少し混乱する感じがする。

また、「はじめに」「おわりに」のビジネス書的な筆致にはじまり、本文内に目立つ小手先の表現(=ひとりツッコミ)が作者の視点と主人公の視点の切り分けを困難にしており、作者は自ら読者を減らしている。 物語の核となる「日本心色士連盟」が出てくるまでにかなり枚数を使ってしまっており、残り枚数でどうやって話をまとめるのかと心配したが、やはりさまざまな問題を消化しきれないまま終わっているのも残念。

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A3封筒マチ付き / 並木飛暁(なみきたかあき)

あらすじ

受験を控えた高校3年生の楓は平凡な女の子。仲良しの「いつメン」ミキティ、ソフィ、そーこたちと集まってはプリクラを撮ったりして楽しんでいた。ところがミキティがカバンの中からA3サイズの穴あきのマチ付き茶封筒を取り出して、皆でそれを被ってプリクラを撮った時から、なにかが変わり始めた。一部の女子高生の間での流行が社会現象になり、生徒だけでなく先生までもが封筒を被り始めた。封筒頭になったカレシを振った楓だったが、実家では父と母が「会社の規則で」と封筒を被りだした。気が付けば、いつのまにか周囲には封筒頭が当たり前で、自分のように素顔をさらす人間のほうが少なくなっていた……。時がたち、大学生になった楓は封筒を被っていた。今日は大企業「日本封筒」の入社面接日。楓はある密かな思いを胸に無事入社を果たすが、ある日、別れた元カレのフミヤくんと再会して、心変わりすることに……!?

二次選考・選評

今回の選考作の中で一番ぶっ飛んだ作品。ノリは携帯小説風なのに、なぜか目が離せない不思議な魅力がある。

「封筒を被る」ことがファッションとして流行し、それがやがて心理面に影響を及ぼし、国民の義務となっていく。まさにアイディア&ヴィジュアルの圧倒的一本勝ちの作品だ。頭から封筒を被る(被筒する)という設定はさることながら、それが正当化され、そういうルックスの人々が町中にあふれていく描写がヴィジュアルイメージを喚起し、実に印象的。

もしかすると主人公が封筒撲滅のため封筒会社に就職する、というところでとどめていればレジスタンスものとして後味のよい終わり方もできたと思うが、それをさらにふた捻りして予想外の方向へ突き進み、ラストでは現代人の生きざまに対する強烈なイヤミともとれる、突き抜けっぷりを披露してくれた。その結果不条理な結末になってはいるが、読者を納得させてしまう強度がある。

封筒人間が増える周囲になじめなくなっていく女子高生の、ちょっと背伸びした内面もよく書けている。カート・ヴォネガットの『ガラパゴスの方舟』を思い起こすところもあった。昨今であれば「アノニマス」にも関連を持たせることができそう。

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つないだこの手を離さなければ / 新島智史(にいじまさとし)

あらすじ

訳あり物件104号室。ここは間違いなく「出る」のだ。 ―― そんな部屋でも「安ければかまわない」とある男が入居した。彼は名門K大法学部の新入生・宮本誠。誠にしてみれば安ければ安いほどいい、ただそれだけのことだった。案の定、部屋にラップ音が鳴り、テレビに変なモノが映る。ついに地縛霊が姿を現した。この部屋で自殺した小泉優という女の子だった。優がその全身を現したとき、誠は問いかけた。「君の目的は何か? 何をしたいのか?」だが優は答えられない。以来、毎日のように誠による優のカウンセリングが始まった。誠は無口だが、その発する言葉は古今の箴言に匹敵する鋭さを持っていた。優と夜な夜な話し合ううち、今度は死神が出現する。死神は「優の存在はイレギュラーなもので、何とかしたい。協力して欲しい」と誠に請う。要するに優を成仏させたいということだ。しかしその時すでに、二人の胸中にはお互いへの恋が芽生えていたのだ。成仏すれば優はこの世から消えてしまう。はたしてこの恋の行方は?

二次選考・選評

類似作品はありそうだが、世界観がしっかりしている。

冒頭部分のまごつきやトーンの急激な変化は気になるが、主人公・誠と周囲の人々の日常生活を淡々と描写する様子に良さがあり、幽霊と同居し幽霊と外に出かけるという非日常的な設定にリアリティを持たせている。映像化もしやすく、海外でも受け入れられる可能性は高い。

「エピローグ」がなければ100点満点。「エピローグ」が現状のままなら60点。「エピローグ」の前までに限って言えば、ほぼ完璧な小説世界を構築し得ている。冒頭での誠の一見偏屈に見える性格も、ラスト前でヒロイン・優との会話の中できちんと説明されているし、優がはじめて誠の前に姿を現す際の描写はいかにも「貞子」だが、読者に対する説明を最小限にするためにはこれでよい。地の文に優の主観を挟み込むタイミングも絶妙だ。

無駄な登場人物が出てこないところも評価したい。すべての人物の役回りがきっちり構成されている。誠と浅葉、誠と優の間で交わされる恋愛観・哲学観も作者の衒学披露にならず、登場人物の設定の中で無理なく消化されている。

タイトル『つないだこの手を離さなければ』は「男女の手」を連想させながらも、最後の意外なオチにつながり、いい意味での裏切りがある。

ただし、途中の死神の能力、使い方がご都合主義すぎるのが気になる。冒頭を誠の視点にして、ポルターガイストに悩まされる部分を大幅に整理すれば、かなり良いまとまりになるのではないか?

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